2018年3月15日木曜日

地点『正面に気をつけろ』


38日(木)

地点『正面に気をつけろ』              @アンダースロー、京都



作 松原俊太郎

演出 三浦基

音楽 空間現代

出演 安部聡子 石田大 小河原康二 久保田史恵 小林洋平 田中祐気 麻上しおり





地点の新作はブレヒトの未完の戯曲『ファッツァー』の翻案。これとは別にブレヒトの『ファッツァー』を構成した舞台は地点のレパートリーとしてすでに上演を重ねている。第一次世界大戦中の脱走兵が地下にこもり、来ることのない革命を同胞たちと夢見ながら、閉じ込められた空間で心理戦を強いられ、欲望と互いへの疑心が彼ら自身を追い詰め、次第に焦燥と敗北の色を深めていく。スリーピースバンド空間現代の図太く鋭い生演奏が弾丸よろしく音を撃ち込み、地点の役者たちのセリフまでもが銃弾のごとく打ち出されるスリリングこの上ない作品だ。今回『正面に気をつけろ』の劇作を行った松原俊太郎はこのシチュエーションを現代の日本に置き換えた。登場するのは英霊たちという設定だが、死んでいるのか死にきれずに彼岸と此岸の間をさまよい続けているのか。当日パンフレットによれば「やってきた者たち」とのこと。「まいったなあ!」で口火を切る台詞の反復と空間現代の相変わらず鋭く重い打音。第二次世界大戦の戦後処理を曖昧にしてきた日本の精神構造が、第二の戦後というべきか福島の原発事故「以後」の閉塞に重なり、二重の不条理な状況を、それ自体がマニフェストかアフォリズムであるかのような政治的かつ詩的にも聞こえる台詞群によって浮き彫りしていく。舞台の手前と奥を分けるように一筋の溝(三途の川?)が通っていて、女がひとり横たわる図はオフィーリアさながら。役者たちが川を渡って手前に出てくると間髪入れずにサイレンが響くのは放射能汚染区域の警報をなぞる。役者たちの発語と身体の緊密な連携にバンドの音が強烈なアクセントで介入し、濃密な観劇体験の中で危機感は高まるばかりである。折しも7回目の3.11を前に、現政権下で起きていると誰もが知っている不正、スキャンダル、崩壊寸前の社会規範と公正と民主主義、外交情勢の急展開等々に見舞われる日々、このままではやばい感が押し寄せる今の日本をそっくり映し出す。新しいメンバー二人を見たのは初めてだった。