KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2021 SPRINGの記者発表が12月15日に催され、全プログラムが明らかになった。本来は本年2020年の10月に開催予定であったが、新型コロナウィルス感染拡大を受け、来年2月6日~3月28日に会期を延期した。今回はこの延期したフェスティバルについての発表である。内容はすでに一般にも公開されたので、ここでは記者発表での発言から印象的だったものを書き留めておく。なお、今回はオンラインで参加した。
今回は3名の共同ディレクターが運営する初回。リサーチ、上演、エクスチェンジの3つの軸で構成される点に注目した。過去10回が選び抜かれたキレのあるプログラム構成を誇ったとすれば、新体制ではコレクティブならではの複数の視点を生かし、周辺領域の知への幅広い関心や、足元の京都、関西のリソース再発見のプロセスを組み込んでいる。
Kansai Studies(カンサイ・スタディーズ)は建築ユニットdot architects(ドット・アーキテクツ)と演出家の和田ながらによるリサーチプログラム。琵琶湖の水にまつわる様々な事象をリサーチし、ウェブサイト、トーク、展示などで3年かけて発表していく。「コロナ流行の中、国境とか県境など境界線を意識する事が多いが、人間が引いた線をキャンセルできる視点を持ちたい。水の循環はそのガイドになる」と和田ながら氏。
上演プログラム「Shows」(ショウズ)でも小原真史が展示で参加。前世紀初頭、帝国主義国による博覧会での被植民者の展示を題材に、見られる身体の歴史を考える。身体を見る、エキゾチックな文化を眼差し、消費するなど現代の芸術と共通する点が多い、とディレクターの塚原氏。Kansai Studiesも合わせ、リサーチ&展示プログラムが充実したものになりそう。
コロナ感染の危機のもと、映像による参加も含まれるが、オンライン配信とせず上映会の形式をとった。これについて塚原氏は「作品は出来る限り決められた空間、画質、サイズで見ることとしたい」と述べる。パソコンやIT環境に左右され一定のクオリティが保てない鑑賞は避けたいとの判断だ。
関西のアーティストが入ることは予想されたが、この顔触れに新風を感じる。垣尾優はベテランだが前回の自作ソロで見せた独特の世界観に度肝を抜かれた。今回もソロにこだわる。自分の表現はシンプルでオーソドックスだが混沌としている。矛盾しているが体そのものである、と語る。ジャンルの境界や外へ向く横軸ではなく、縦の時間に関わるものだという。中間アヤカ『フリーウェイダンス』神戸、横浜に続く京都ではリ・クリエーションする。会見で自作を語る言葉が力強く、自身のやろうとしていることがより明確になっているのかなと見受けられる。
音遊びの会×いとうせいこう。言葉を音や声などより広く捉え、一人一人がいとう氏とセッションすることで、それぞれ存在の仕方が違うのだということが見えるようなパフォーマンスにしたい。一度リハーサルをしたがもうすぐにでも本番に入れそうな勢いであるという。障害のある人の参加は『劇団ティクバ+循環プロジェクト』以来。関西のダンスに通底する価値感だろう。
海外からはカナダ、オーストリア、タイ、インドネシア、カナダ。感染の状況では無事公演ができるか予断を許さないが、中止にせず何等かの形での参加を模索する方針という。3名のディレクターそれぞれ海外のフェスティバルに感じることは世界を同じ作品が回り、消費されている、それが開催地域とどうつながるかが見えないという疑問。作品のプロセスや背景が見えること、地域とフェスがどうつながるかを探ること、社会に受け止められ影響していくかを考えたい、とする。
コロナの影響による会期延期の事態に対しては、ディレクターチームであったからこそ出来ることをやっていこうと前向きになれた。世界各国のディレクターたち同業者とも定期的にミーティングして情報を共有し、プログラムにも影響している。配信ではなく上映会にしようとの決定もこうしたコミュニケーションからヒントを得た、と塚原氏。
前任者の橋本裕介氏からはKEX.の名称だけは受け継いでほしいと要望があった。そのほかは出来るだけ変えてくれと言われた。ディレクター3人で毎週2回ミーティングを行い、社会状況、背景などを話し合っている。3人だから色々なことが出てくる。ふつかることもあるがそのプロセスが面白い、それらを一つの言葉でまとめるのではなく、様々な視点で観客に提供したい。一つの定義より複数あることの自由さがある(塚原、ナップ、川崎)。