<蔵出しレビュー>
気迫あふれるムーブメントに清新な空気 中村恩恵とのコラボレーションも興味深く
アンサンブル・ゾネ 『Fleeting Light ~つかの間の光~』
2010年2月27日 @神戸アートビレッジセンター
アンサンブル・ゾネの新作公演は全体に清新な空気が通されている印象がある。白いリノリウムを張った床、布で覆った壁、上方から射すライティングで硬質な空間が作り出され、岡本早未が腕を大きく使って空間を切り開くように現れる。上下とも白いシンプルな服でジェンダーの色を消し去り清々しい岡本は、最終場面でもソロをとり、今作の語り部であり先導者のような存在。続いてダンサーが現れ、それぞれの気迫あふれるムーブメントが白い空間を開拓していく。照明の効果で白い床に踊るダンサーの影が落ちる。光と動きと身体の重なりが甘さのない峻烈な空間を創出して秀逸である。
今公演は孤高とも思われたアンサンブル・ゾネの世界が、時代を生きる表現にほかならないことを示す内容だった。様々な形で重ねてきた音楽との即興セッションは、身体を常に動的に保ち、作品にも鋭敏で活き活きとした感覚を与えている。今回の共演者はウィーン在住の音楽家、内橋和久。加工した音源をライブで合わせ、直接対決ではなく環境に働きかけるタイプである。内橋の弾くギターと伊藤愛のソロによるシーンは、即興的な精彩に富み、それぞれの生身の音と身体によってこの場が‘生きられた’と感じられた。
音楽との適度な距離感を得て、岡登志子の高い構築性をもった振付の魅力も存分に発揮されている。垣尾優がピタリと静止の利いた結晶のようなフォルムを決めていく。一方数回に渡る公演で岡本、山岡美穂、井筒麻也、糸瀬公二ら若手のメンバーが固定してきており、それぞれがカンパニーの語法を自身のものとして獲得し、集団に共通の基盤となっているように見受けられた。おそらくこのために、ストイックにも見える構成や純度の高いフォルムについても、ひたすら厳密に抽出したというより、むしろ個々の内発的な動きをカンパニーの作業を通してコミュニカティヴなものに練り上げ、共有可能な形に結実させているのだと納得されてくる。定番の群舞ユニゾンはこうした過程が文字どおり実践される場面と見てよいだろう。
さて、カンパニーの言語基盤が確かになったことで、ゲストダンサーに中村恩恵を迎えた意義はより明確になったと言えるかも知れない。周知の通り中村はネザーランド・ダンス・シアターに在籍した後、現在は日本を拠点に世界各地でキリアン作品のコーチにあたっている。キリアンの舞踊芸術について中村は、クラシック、グラハム、カニングハムといったダンスの主要なメソッドを習得した身体を前提としながら、作品においては暗部をもふくめた人間性の全体を捉えようとするものだと述べる。岡登志子はピナ・バウシュを輩出したフォルクヴァング芸術大学舞踊学科の出身、ドイツ表現主義の流れを汲んだ創作法を学んでいる。ドイツの系譜にある舞踊家との仕事は初めてという中村は、内発性を重視した岡の動きの起こし方を新鮮に受け止めたという。今回は全くダンサーとしての参加だが、上体の高い位置に意識の中心を設け、腕へ、下肢へと身体を合理的に配置していく構えは、舞台の上で他のダンサーとの相違を際立たせている。その内在した論理が、身体の奥底から掘り出してくるような岡の振付に、明晰でしなやかな解釈をもって応えていく。両者のデュオは腕のさりげないモチーフをユニゾンで踊るもので、独立した二つのモノローグとなっていた。ゾネの動きによる実存の探求と、中村の身体の論理性、それぞれのアプローチが“人間性”を巡って出会い、試行を重ねていくと、非常に興味深いコラボレーションが実現するのではと思われる。
(初出:音楽舞踊新聞)